ユーザーの視覚特性との関連

 明るさまたはコントラストが「ちょうどよい」に設定されていないと終業時の目の疲労感が高まる。低すぎると有意に疲労感が高くなる。高すぎる場合は,「ちょうどよい」との間で有意差が無かったが、次に示した昨年度の結果では有意であった。

 本年度、「高すぎる」で有意でなかったのは、高精細化により、より高輝度・高コントラストが必要になっているためかもしれない。次々の図に示すように確かに、「高すぎる」とする人の割合は昨年の約1/2に減少しているが、低すぎるとする人の割合は逆に増加している。
明るさおよびコントラストの評価と終業時の目の疲労感
昨年度2001年度の結果

 自発光型の電子ディスプレイに基本的に内在している問題である.光環境同調型の印刷紙面との最たる違いのひとつ.
 
 輝度とコントラストの設計に対する考え方については、以下の拙論をご参照いただければ幸いです。

窪田 悟:透過型液晶ディスプレイに求められる表示輝度とコントラストの条件,テレビジョン学会誌,50卷,6号,pp768-774,1996.6

窪田 悟:LCDとCRTの視認性および可読性の比較,ディスプレイアンドイメージング,5卷,3号,pp.181-190,1997.4
明るさおよびコントラストの評価と終業時の目の疲労感(昨年2001年度)

 昨年度2001年度と比べて,「ちょうどよい」とする人の割合は増加している.

 一方,「低すぎる」が増加して,「高すぎる」が減少している.ディスプレイの文字サイズの縮小ないし高精細化による文字線の細線化の影響かもしれない.

 また,輝度とコントラストが比較的低く,調節範囲も狭いノートPCの増加の影響も考えられる.

明るさおよびコントラストの評価

 ノートPCで調節できないとする回答者が約2割いる。上の結果を見ると問題の重要性が理解される。

輝度・コントラストの調節容易性
 LCDノートは実使用サイズも理想サイズも若干小さい。視距離と画面サイズが関係していると思われる。

 文字サイズが小さいノートPCほど高輝度が必要という見方もできる.
文字サイズ、理想と現実
 40代からより大きい文字を使用している実態がある。画素ピッチが0.25mmと仮定すると40代では30代以下と比較して、1画素、50代では、2画素大きめの文字を使っていることになる。

 高齢ユーザーに対する考えかたについては、以下の拙論をご参照いただければ幸いです。

窪田 悟,松戸 堅治:加齢による視覚特性の変化がディスプレイからの文字情報の読み取り速度に及ぼす影響,映像情報メディア学会誌,55巻,4号,pp.583-587,2001.4

窪田 悟,松戸堅治,丸本耕次:高齢者の視覚特性に適合した液晶ディスプレイの文字表示条件−表示輝度,コントラスト,文字サイズの主観的な適正値の若齢者との比較−,映像情報メディア学会誌,53巻,9号,pp.1335-1342,1999.9

年齢別に見た文字サイズの要求値
 文字サイズは年々縮小している。高齢化社会と逆行していないか。

 LCDノートで特に顕著である。高画素密度化が原因である。「ディスプレイの種類と特性」のページで示したように、ノートはSVGAがほとんどなくなりXGAが中心となっている。

 視距離、画面サイズ、タスク、フォントデザイン、ユーザーの視覚特性との相互作用をもう一度考え直す必要があろう。
過去3年間の文字サイズの変化
 文字の縮小は、理想サイズとのギャップを広げている。利用者中心設計においては深刻な問題である。
過去3年間の要求文字サイズと実使用文字サイズのギャップ
 実使用サイズと理想サイズのギャップが大きいほど終業時の目の疲労感が有意に大きい。
要求文字サイズと理想文字サイズのギャップが終業時の目の疲労感に及ぼす影響
 ただし,実際に使用している文字の大きさと終業時の目の疲労感に有意な関係は認められない。
実使用サイズと終業時の目の疲労感
 文字輪郭のギザギザは知覚されている。超高精細化が必要である。200ppiでは不足、300ppiがとりあえずの目標である。その根拠は別途実験的研究で示す予定である。

 現在の段階では、以下の拙論をご参照いただければ幸いです。近々、超高精細LCDの文字表示品質について発表予定です。

窪田 悟:LCDの画素密度と表示文字の読取りやすさとの関係,映像情報メディア学会誌,56巻,8号, pp.1304-1308,2002.8
文字輪郭のギザギザ(ジャギー)の評価

 文字線幅が狭い、すなわち文字線が細いと感じられている。視覚のコントラスト感度特性との関係で文字サイズだけでなく、文字線幅は重要である。特に高空間周波数域のコントラスト感度が低下した中高齢者で問題となり得る。

 
フォントデザインに配慮をしない中途半端な高精細化は文字表示のバランスを失わせる。それが300ppi以上の超高精細化が求められる所以である。

文字線幅の評価